今回はスタートアップが初期の資本政策を考える上で論点となり得る、株式返還時の税負担とその対応策について紹介します。
【目次】
1.論点 – 株式返還時の税負担
2.対応策 – 優先株式の活用
3.その他 – 役立ちそうな情報
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1.論点 – 株式返還時の税負担
スタートアップで2-3人など共同創業者として起業するという例はよくあると思います。順調に共同創業メンバーが変わることなく、IPOや売却に漕ぎ着けられれば良いですが、そうならないことの方が確率としては大きいと思います。共同創業者の一人が途中で抜けるということも十分考えられます。そんなときに困るのが、抜けようとしている共同創業者の株式をどうするのかという問題です。単純にその共同創業者から買い取れば良いじゃないかと思うかもしれませんが、ここでネックとなるのが税負担の問題です。知らないでいざ買い取ろうとするときになってことの深刻さに気づくという例も聞くので、ここで確りとポイントを抑えましょう。
共同創業者は基本的には個人なので、ここでは①個人⇒個人、②個人⇒法人(発行会社以外)、③個人⇒法人(発行会社)の③パターンの譲渡が考えられます。それぞれのケースを順に見ていきます。
①個人⇨個人の譲渡
この場合は、以下の様な課税関係にあります。
譲渡する側:課税されない
譲り受け側:贈与税(基礎控除額110万円に対して10~55%の累進課税)
e.g.仮に100万円で取得した株式(時価5,000万円)をそのまま取得価格で譲渡すると、譲受人は4,900万円(5,000万円-100万円)が贈与の額になり、基礎控除額110万円を除いた4,790万円が課税額となり、55%の税率(課税額が3,000万円超の場合)が課せられます。よって、譲受人は株式取得金額の100万円に加えて、約2,635万円を贈与税として納めなければなりません。
個人(譲渡人):株式の譲渡、株式譲渡資金100万円の受取り
個人(譲受人):株式の譲受、株式取得資金100万円の支払い、贈与税2,635万円の支払い
時価5,000万円の株式を100万円と安く取得出来るのは良いですが、譲受人(株式を買い取る側)は結局2,800万円弱の資金を準備しなければなりません。
②個人⇨法人(発行会社以外)の譲渡
この場合は、譲渡する金額と時価との乖離幅に応じて課税関係は2パターンに場合分けされます。
A:時価の1/2未満で売却する場合
譲渡人:時価で譲渡されたと見なされ、譲渡益(譲渡額と時価との差額)に対して20%の課税
譲受人:受贈益として処理され、法人税(15~23.4%)として課税
B:時価の1/2以上で売却する場合
譲渡人:譲渡価格=時価と認められ、課税されない
譲受人:受贈益として処理され、法人税(15~23.4%)として課税
e.g.前述の例と同じ経済条件で、仮に100万円で取得した株式(時価5,000万円)を個人(譲渡人)がそのまま取得価格で法人(譲受人)へ譲渡すると、譲受人は4,900万円(5,000万円-100万円)が受贈益になり、資本金1億円以上の法人だとすれば23.2%の法人税が課せられる為、約1,147万円を支払う必要があります。一方、時価の1/2未満での譲渡になる為、譲渡人も980万円(4,900万円×20%)もの譲渡税を納める必要があります。
個人(譲渡人):株式の譲渡、株式譲渡資金100万円の受取り、譲渡税980万円の支払い
法人(譲受人):株式の譲受、株式取得資金100万円の支払い、受贈益に対する法人税1,147万円の支払い
この様に、個人⇨法人の場合は譲り渡す方、譲り受ける方の双方に大きな税負担が課せられる可能性があります。
③自己株式の取得-Recap(個人⇨法人(発行会社)の譲渡)
この場合は、個人・法人間における譲渡なので基本的に②と同様の考え方です。加えて、発行会社が株式を取得する金額によっては、みなし配当と見做されて課税される可能性があります。
加えて、この場合は会社法上の問題も絡んできます。それは、発行会社は会社法上の分配可能額の範囲内でしか自己株式の取得を行うことが出来ないということです。分配可能額の計算はややこしいので割愛しますが、ざっくりと今迄生み出した利益の範囲内でしか買戻しが出来ないということです。そうなると、赤字ベンチャーの場合、そもそも利益の積み上がりがないので自己株式が取得出来ないということになります。(増資により、資本金及び資本準備金の積み上がりがある場合は、それらを利益剰余金に振り替えることで、原資を作ることが可能です。)
2.対応策 – 優先株式の活用
共同創業者が途中で抜ける際の、上記税務上のリスクを優先株式を用いて調達することで抑えられる可能性があります。通常、普通株主に優先して残余財産の分配権などが付与されている優先株式は、普通株式よりも時価が相当に高くなります。
例えば、資本金(≒純資産)300万円程度の会社が、投資額の1.5倍まで残余財産の分配までを認める優先株式で1億円の資金調達を行った場合、1.5億円までは優先株主に対して分配されます。よって、資金調達直後に仮に会社を清算しようとすると、103百万円の純資産は全て優先株主に分配され、普通株主が受取る金額はゼロです。
よって、高い株価で資金調達を行う場合に、優先株式によって資金調達を重ねることで、(普通株式のみで資金調達した場合と比べて、普通株式の株価上昇を抑えられるので)将来時点において普通株式を保有する共同創業者の離脱に伴う税務上のリスクを抑えられる可能性があるからです。
加えて、より高い金額でValuationが付くので、普通株式と比較して希薄化も抑制することが可能です。デメリットとしては種類株主が生まれるため、株主総会に加えて種類株主総会を別途開催するという手間が生まれます。
3.その他 – 役立ちそうな情報
下記は自身の備忘も兼ねて、資本政策を考える上で役立ちそうなリンクをまとめて貼っています。
メルカリの上場後に導入した新インセンティブ制度⇨RSU(Restricted Stock Units、譲渡制限株式ユニット)
スタートアップはキーとなる従業員に何%の株を渡せば良いのか⇨幹部レベル1.5%~2.0%、従業員のポジションとランク、及びその会社がどの人員に重きを置くか(競争優位性の源泉になるか)によって決める(e.g.開発がかなり肝になる会社の場合、ジュニアレベルのエンジニア0.15%、ミドルレベル0.45%、ジュニアレベルのBezDev0.05%など)
株式数、共同創業者の持株比率はどうする?⇨SOなどでの付与株の細かな調整(少なくとも持分比率で0.01%)が出来るように発行済株式総数と発行価額(=1株当たり株価)を調整するのが良い(e.g.当初資本金=300万円の場合、0.01%の調整を行えるようにすると、発行済株式総数=1万株、株価=300円/株となる)、発行可能株式総数については1,000万株1億株程度に変えておけばその後の発行にも充分対応でき無駄に定款変更する必要がなくなる(上場会社は発行可能株式総数÷4≦発行済株式総数とする制限有り)
資本金はいくらにするのか?にもあるように、当初資本金は1,000万円を越えない方が税制上有利。但し、事業運営上の資金が資本金の範囲に収まらず、創業者貸付とする場合に、投資家からの資金調達後だと、当該貸付を回収することが実務上難しくなる。よって、1,000万円未満としつつ、事業計画上で投資家から資金調達する迄に必要な金額を資本金とするのが理想。
以上、初期の資本政策を検討する上でネックとなる、株式の譲渡にかかる税負担の論点と対応策についてご紹介しました。
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