ストックオプション(新株予約権)は通称、英名の頭文字をとってSOと呼ばれたりもします。これは、SOとは予め定められた金額(行使価額)で株式(普通株式や種類株式など色々設定可能)を購入することができる権利を指します。(金額や株式の種類だけでなく行使条件を付与することで、行使できるタイミングをコントロールする様な設計も出来ます。)権利行使が行われるまでは、株式としては扱われないので、SOを発行・付与しても希薄化はその時点では発生しません。よって、スタートアップが従業員向けのインセンティブとして採用や賞与支給の代わりにSOを与えて優秀な人材の獲得・維持を図ることに活用したりします。今回はそんなSOの種類と留意点について紹介します。
【目次】
1.ストックオプションの種類と留意点
2.創業者へのSO付与
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1.ストックオプションの種類と留意点
ストックオプションは基本的には、以下の3つ(①~②-B)に大別できます。
全てに共通する点としては、ストックオプションの発行時点において、バイネームで割当先(付与する相手)を決めなければいけないこと、会社が成長するにつれてストックオプション発行時の行使価額が上昇する為、過去発行されたストックオプションと比べれると旨味(行使によって得られるキャピタルゲイン)は減少すること、が共通のデメリットとして挙げられます。各々、もう少し詳細を見ていきましょう。
①有償ストックオプション(以下、有償SO)
有償(新株予約権の割当者が一定の対価を発行会社に支払う)SOを指します。この場合、金融商品(投資)と見なされ、新株予約権を行使して取得した普通株式を売却する際に、普通株式の取得価格(=新株予約権の行使価額)と売却価格との差額に対して譲渡益課税(最大約20%)が課税されます。
ただし、有償SOを取得する際に払い込む金額(発行価額)が不当に低いと判断された場合、経済的利益が発生したとして課税対象になるため、信頼性のある第三者の外部機関(e.g.プル―タス)による発行価額の算定が不可欠になります。
②無償ストックオプション(以下、無償SO)
有償SOと対比して、無償(発行価額=0)で発行されるSOを指します。以下2つの種類に大別出来ます。
A:税制非適格ストックオプション
後述する特定要件を満たさない無償SOは全て無償税制非適格ストックオプションに該当します。この場合、無償SOは給与の一部として従業員に対して無償で割当されるものと考えられます。よって、新株予約権を行使して普通株式を取得した段階で行使価額と取得する普通株式の時価との差分に対して給与課税(最大約55%の累進課税)が課せられます。加えて、取得した普通株式を後日売却した際の取得価格(=新株予約権の行使価額)と売却価格との差額に対して譲渡益課税(最大約20%)が課税されることになります。
B:税制適格ストックオプション
下記の要件を満たす無償SOは税制適格ストックオプションと見做され、有償SOと同様の課税が行われます。(普通株式の取得時に給与課税はされず、普通株式を売却した時の譲渡益課税のみ課せられます。)
【税制適格要件】
発行対象者:発行会社の取締役又は使用人等の個人、かつ新株予約権の決議時において大口株主(発行済株式総数の1/3超を有する株主)に該当しないもの
権利行使期間:付与決議から2年経過した日から10年経過した日まで(付与決議日から12年以内)
譲渡制限:譲渡禁止規定が付されている
年間行使限度額:権利行使価額の年間合計額が1,200万円以下
権利行使価額:権利行使価額>付与時の普通株式時価(ディスカウント発行ではない)
その他:証券会社等との間で管理等信託契約を締結し保管の委託等が成される
有償・無償ストックオプションに共通するデメリットを排除し、かつ有償と無償固有のメリットを享受できる仕組みとして開発されたのが信託型ストックオプションです。
③信託型ストックオプション(以下、信託型SO)
本スキームは信託勘定を設定し、従業員ではなく当該信託への有償SO割当を行います。この際、信託の委託者(多くの場合は発行会社の代表取締役)が有償SO取得に相当する金銭を信託することで、当該信託(=受託者)はSO取得することができます。
次に、発行会社は従業員に対して業績評価に応じたポイントを付与します。このポイントは将来的に当該信託に割当されたSOと交換することが出来ます。信託満了時(当該信託が預かっているSOと同じだけのポイントが従業員へ付与された時点)に従業員に対してポイントと交換する形で当該信託がSOを付与します。
こうすることで、
・発行時点でSO割当先を決める必要がない
・信託に割当られたSO分については行使価額が発行時のまま(冷凍保存)
・有償SOなので、課税については譲渡益課税のみ
・有償SOの取得対価は委託者が支払う為、従業員は無償で取得できる
・纏めて発行することでSO発行に係る事務コストを抑制できる
といった、有償・無償SOで挙げられた、諸々のデメリットを無くし、各々の良いとこどりを行うことが出来る画期的な仕組みです。しかしながら、デメリットを挙げるとすると、発行会社の監査法人によっては当該スキームを受け入れてくれない可能性がある為、導入前に監査法人とも良く相談する必要がありそうです。
2.創業者へのSO付与
最後に少し本筋から脱線してしまいますが、創業者にSOを付与することについて考察します。
一般的に、SOの発行は発行済株式総数の15%程度に抑えることが好まれます。これは、旧商法下においてSOの発行が発行済株式総数の10%までという制限があった為、撤廃後もこの数値が意識され15%程度というのが目線とされているためです。
加えて、SOの発行数が多いということは、それだけ潜在的な希薄化が発生することになるので、投資家から嫌気されたり、上場時にネガティブに見られる可能性があります。
そういった背景から、創業者に対してSO付与することは投資家(VCなど)から相当程度ネガティブに見られる可能性があり、何も考えずに付与してしまうとその後の資金調達を困難にさせる可能性もあるそうです。
但し、メルカリの事例もあるように必ずしもダメという訳ではなく、要は投資家、証券会社、東証からの納得が得られるかがポイントの様です。(メルカリはSOを人材戦略として非常に有効に活用した会社。上場迄に計25回のSO付与を行い(内何回かは創業メンバーにも付与)、上場時のストックオプションの比率は発行済株式総数の17.3%と高い水準だった。)
以上、今回はSO(ストックオプションに関する留意点)について紹介しました。
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