今回はつい先日ローンチされたジンズのCB発行事例をご紹介します。
扱う事例は2020/2/12にローンチ・条件決定されたメガネのジンズ(東証一部上場)です。
※ここに記載されている内容は全て参考リンクに掲載されている公開情報を纏めた内容となります。
【目次】
1.ジンズについて
2.CB発行概要
3.CB発行後の株価推移
1.ジンズについて
CMでも見かけるジンズ。メガネをお持ちの方も多いのではないでしょうか?かく言う私も、ジンズのメガネをかけながらこの記事を書いています。手軽に買えるメガネとしてはZoff(ゾフ)と並んで日本国内で最も人気なブランドの一つだと思います。
実はそんなジンズも、最初は服飾雑貨の製造・卸売業として群馬県で事業を開始します。メガネ事業への参入は2001年に福岡の天神に1号店を出店してからだそうです。そこから19年の間に、上場し(2006年に現JASDAQに上場、2013年に東証一部に鞍替え)し、売上も600億円(FY19/8)を超えています。
国内におけるメガネ関連の小売市場規模は約4,000億円(日本経済新聞-市場は横ばい続く 中高年の老眼向け商機-)ほどだそうです。ピークと言われる1990年代の6,000億円と比べると市場は30%以上縮小したこととなります。高齢化によってメガネが必要となる人口は増加しているのかもしれませんが、コンタクトレンズの普及によってシェアを大きく取られてしまったものと思われます。
そんなメガネ市場の約15%のシェア(≒約600億円/約4,000億円)をジンズが占めておりますが、同社は視力矯正を行うための器具としてのメガネだけではなく、機能的な目的別ツール、或いは実用的なファッションアイテムとしてメガネを捉え、前述の市場を再定義しようとしています。
例えば、デスク作業が多い人向けのPCメガネや、各種スポーツ(ゴルフ、サイクリングなど)向けのメガネなどが正にそうで、それらを購入する可能性のある潜在的なユーザー数をもとに再試算すると、1兆円程度の市場となるそうです。ジンズの田中社長がこの考えを発表したのが2010年で、10年後には1兆円に拡大した市場で10%のシェアを確保するとの目標を立てていました。(参考:2010年の長期ビジョン発表会)
その時点と比較すれば、世の中のメガネの使われ方として田中社長の考え方がだいぶ浸透してきたのではと感じます。売上高も2010年に100億円程度だったので6倍近く成長したことになります。しかし、市場規模自体は前述の通り、4,000億円と実は2010年の頃と同じサイズです。
統計データを見つけられていないので推測になってしまいますが、ジンズ含む新たなメガネブランドのシェアが拡大することにより単価が大きく減少し、メガネの購入者数や購入頻度・本数の伸びよりも前者のインパクトが大きいことに起因するのではないかと思われます。前置きが長くなりましたが、次に今回発行したCBについて見ていきましょう。
2.CB発行概要
ジンズが発行したCBの内容について発行概要と目論見書(代替書面・添付文書を選択)をもとに見ていきましょう。
開示資料を基に、ジンズのCB発行条件の概要について下記の通り纏めました。主幹事証券はクレディスイスとみずほ証券(恐らくトップレフト)が務めています。
総額200億円の発行ですが、100億円ずつ3年と5年の2本に分けて発行されています。 本数を分けて発行する 理由は様々ありますが、一般的には償還年限を分散させることによってキャッシュ (アウト) フローをなだらかにする、また転換する可能性があるタイミングを分散させる効果が期待できます。
更に、特徴としては5年債は前回のロームと同様に募集価格103%に対してアップ率を仮条件として投資家への需要を募っているのに対して、3年債についてはアップ率を20%で固定し、募集価格を仮条件としてマーケティングしています。これは、訂正臨時報告書の訂正内容を確認すると良く分かります。
続いて、200億円の資金使途は以下の4点です。
①国内及び中国におけるアイウエア専門ショップの新規出店等の設備投資(40億円)
②R&D及び新規事業への投資(30億円)
③M&A資金(80億円)
④自己株式の取得(50億円)
④については前回のロームの記事でも紹介した通り、CB発行に伴う潜在的な希薄化やヘッジファンドのデルタ売りによる、短期的な株式需給への影響を緩和することを目的としたものです。
今回は、発行概要の中身をもう少し見ていきましょう。P.22にロックアップという項があります。 ロックアップとは、発行会社とその大株主が、エクイティ・ファイナンスを行ってから一定期間を経過する迄は、株価に影響を与える様な新株の発行、株式の売却等を基本的に行えないようにする旨を取り決めたものです。
内容を見てみると、 当該CBに係る引受契約書の締結日からCBの払込期日後180日間を経過するまで(ロックアップ期間)は 、共同主幹事引受会社の事前の書面による承諾なしには、ジンズは新株を発行できないとあります。また、ジンズの田中社長と合同会社マーズ(社長の資産管理会社)は、ロックアップ期間中に同じく共同主幹事引受会社の事前の書面による承諾なしには、 ジンズ株式の売却等を行うことが出来ないとあります。
また、「 当社代表取締役である田中仁は、本新株予約権付社債の共同主幹事引受会社との間で当 社普通株式の貸株契約を締結する予定 です。」という文章が続きます。これは、共同主幹事引受会社がヘッジ系の投資家に対して貸株を提供する用意があるということを対外的に示す意図があります。
以前ご紹介した通り、CB投資家の内、ヘッジ投資家はデルタヘッジ(現物の株式空売りとCBのオプション部分の保有)目的でCBを購入します。その為、CBのオプション部分の原資産である株式の借株コストが発行条件に影響してきます。浮動株が潤沢に無ければ、借株の供給が少ないためコストも上昇することが予想され、その点を踏まえたCBのプライシングを投資家も行います。よって、大株主から借株の提供があることを示すことで、借株コストを抑える狙いがあります。
更に、今回は付帯条項として、3年債に120%コール条項が付与されています。これは、20連続取引日に渡って、終値が 転換価額(9,432円)の120%を上回った場合に、発行会社は事前に投資家へ通知をした上で残存するCBを額面金額の100%で繰り上げ償還できるというものです。投資家からすると終値が転換価額を大きく上回っている際に、額面金額で償還されてしまうと損をしてしまうので、権利を行使します。コール条項は資本増強が必要な場合には、それを促す効果があるということです。発行体に付与されるものなので、発行条件(通常はアップ率ですが今回は募集価格)にはマイナスに働くことになります。
3.CB発行後の株価推移
前述の通り、総額200億円のCB発行に係る潜在的な希薄化率は8.5%(約200万株)と50億円の自己株式の取得(▲63万株)を加味しても影響はある程度ありそうです。実際に、ローンチ翌日の始値は7,610円(前日終値▲250円)と下落しましたが、最終的な終値は7,870円( 前日終値+10円 )で着地しています。(戻った要因は何だったのでしょうか・・・?軽く調べただけでは原因はちょっと思いつきませんでした。)それ以降は、コロナウィルスの影響で相場全体が下がる中、同じ様に下がっています。
1年のスパンでジンズの株価を見てみると、ピーク(実際に上場来最高値の水準)に達しており、エクイティ・ファイナンスを行う上では絶好のタイミングであったことが分かります。但し、ジンズが掲げる今後の成長戦略に中国市場とあり、コロナウィルスの影響が長期化する様であれば、ここから更に下落しそうです。(当社に限った話ではありませんが・・・)
いかがでしたでしょうか?実際に、発行概要を見ながら発行会社について調べてみると色々と芋づる式に情報が連なり、会社の理解が深まるので面白いです。ファイナンスを勉強されたい方は、CBだけでなく他の資金調達手法についても企業の開示資料を、 決算短信や有価証券報告書などと一緒に一度見てみることをお勧めします。
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