今回は、転換社債の仕組みについてご紹介します。
今回はCB(転換社債)の仕組みについてご紹介します。正式名称は新株予約券付転換社債(Convertible Bond)と呼ばれ、普通社債(SB)と新株予約権(ワラント)が一体となった債券です。企業の資金調達手段の一つとして用いられます。特徴としては、予約券が付与されることで通常よりも低コストでの調達が可能です。
【目次】
1.転換社債(CB)とは
2.CBのオプション価値
3.CB投資家の種類とデルタヘッジ
4.アセット・スワップ
5.CBの付帯条項
1.転換社債(CB)とは
(金商法上の)正式名称は、転換社債型新株予約権付社債(Convertible Bond)となかり長い為、タイトルにある転換社債や英文の頭文字をとってCBと呼ばれます。その名の通り、発行会社の普通社債(SB, Straight Bond)に新株予約権(Warrant)が一体となって発行されたものです。
この記事を読み進める前に、そもそものSBやデリバティブの基本的な仕組みについて確認したい方は、以下の記事を一読頂いた上で、先に進んで頂けると理解し易いと思います。
<ご参考>
◆SBについて:https://okablog.xyz/finance/sb-finance/straight-bond/
◆デリバティブについて:https://okablog.xyz/finance/derivative/derivatives/
発行会社は、通常はSBを発行すると一定期間ごと満期(償還日)迄に、一定のクーポン(利息)を、SBを購入した人(投資家)に支払う必要があります。しかし、新株予約権を付与するCBの形態をとることで、SB対比で小さいクーポンで(日本企業が発行する多くの場合は、ゼロクーポンで)発行することが出来ます。
その理由について、額面金額100円、発行価格100円、年限5年、利率1%で発行したSBを例に考えてみましょう。当該SBは下図の通りパーで発行され、クーポンは1.00となります。
この場合、SBの価値100.0に対して元本部分の価値が95.1、クーポン部分の価値が4.9であることが分かります。では、このSBをゼロクーポンにするとクーポン部分の価値がゼロとなる為、社債価値=元本部分の価値(95.1)となり、このまま発行すると期中のクーポンの支払いは発生しませんが、満期で償還をする際に100.0で償還することになる為、結局利払いは発生することになります。
そこで、足りなくなったSBのクーポン部分の価値に代替するものとして、新株予約権(発行会社の株式を原資産とするコールオプション)を付与し、ゼロクーポンのSBとオプション価値を足して100.0のCBを作ることで、ゼロクーポンでの発行が可能となるのです。
社債価値については、SBの記事でもご紹介した方法で算出できます。それでは、CBのオプション価値についてはどの様に考えれば良いのでしょうか?次章でもう少し詳しく見ていきましょう。
2.CBのオプション価値
デリバティブの記事でもご紹介しましたが、オプション取引は原資産(オプションの裏付けとなる資産)を行使価格で売買する権利を売り買いするものです。CBの場合であれば、CB投資家はCB(新株予約権)を購入することで、発行会社の株式(=原資産)を転換価額(=行使価格)で買うことができる権利(=発行会社株式のコールオプション)を購入したことになります。
ここで転換価額という見慣れない言葉が出てきましたが、これはCBを理解する上でとても重要な概念となります。転換価額は以下の様に定義されます。
転換価額=基準株価(発行条件決定日の終値)×アップ率
基準株価は問題なさそうですが、今度はアップ率という見慣れない言葉が出てきました。アップ率とはその名の通り、基準株価からどれだけ株価が上昇した所を権利行使価格とするかの比率です。例えば、基準株価100円、アップ率が30%であれば、転換価額は130円となります。
アップ率は、通常CBを発行したタイミングではレンジで表記され、ローンチ後のマーケティングでCB投資家からの需要を踏まえて条件決定されます。以下は、株価の動きとCBの転換価額の関係を図示したものです。パターン①の場合は、新株予約権を行使すれば時価600円の株式を転換価額の500円で取得することができ、再度売却することで100円の売却益が得られます。一方、パターン②の場合は、株価が400円と転換価額を下回っているため(オプションのIntrinsic Valueはゼロ)転換せずに、(Time Valueが残る迄)債券としてCBを保有し続けます。
CBのオプション価値についてもう少し詳しく見ていきましょう。デリバティブの記事でも紹介した、オプションの価値に影響する要素に借株コストを加えた以下6つの項目がCBのオプション価値に影響する主なものです。
<CBのオプション価値に影響する主な要素>
・原資産の価格(=株価)
・行使価格(=転換価額=基準株価×アップ率)
・満期までの期間(=行使期間)
・金利
・ボラティリティ★
・借株コスト★
★印を付けた2つについて詳しく見ていきます。
ボラティリティ:
デリバティブの記事でも触れましたが株価の変動を表す指標です。この指標が大きい程、株価の値動きが大きく行使価格を上回る(プットなら下回る)可能性が大きくなる為、オプション価値が大きくなるということでした。
また、ボラティリティにはヒストリカルボラティリティ(HV, Historical Volatility)とインプライドボラティリティ(IV, Implied Volatility)の2種類があります。前者は今迄の実績で、後者はこれからの予想です。CBを発行する際のバリュエーションではIVが用いられますが、予想なので当然ですが一意に定まることはありません。ここがCBのバリュエーションが分かれる大きな要因でもあり、発行サイドは正しくIVを読まないと発行してから悲惨なことになります。
借株コスト:
借株コストとは、株式を誰かから借りてくる際に、借り手が貸し手に支払う利息の様なものです。なぜ株式を借りてくるのかというと、主には空売り(誰かから借りてきた株式を売却すること)をするためです。例えば、株価1,000円で1株空売りして、800円に値下がりしたときに1株を買い戻すと、差額200円が手元に残ります。これが空売り・買い戻しによる利益です。空売りは、投機目的とヘッジ目的(持っている株式などの下落リスクを抑える)で使用されます。
借株コストについては何となく分かったかもしれませんが、なぜそれがCBのオプション価値に影響してくるのでしょうか?それはCBの投資家でCBのオプション部分だけを保有して、原資産となる株式を空売りするヘッジ系の投資家が存在するからです。CB投資家の種類については後述します。
3.CB投資家の種類とデルタヘッジ
CB投資家には大きく分けて2種類の投資家が存在します。
①ロング投資家(アウトライト投資家):純粋にCBを売り買いする投資家
②ヘッジ投資家(クオンツ投資家):前述の空売りと合わせてヘッジする投資家
ここで、先程から出てきているCBのヘッジ取引について説明します。これはデルタヘッジと呼ばれる手法です。まず、デルタ(Δ)という言葉ですが、これは原資産の値動きに対してオプション価値がどの程度変動するかを表す指標(0~1で表される)です。
例えば、CBを20単位購入した場合を考えてみます。CBのコールオプションのデルタが0.2だと仮定すると、4(=0.2×20)デルタのポジションを持っていることになります。一方、原資産となる株式のデルタは当然1ですので、これを4単位空売りすることで-4(=-1.0×4)のポジションが生まれ、先程のコールオプションによるポジションと合計するとデルタの合計はゼロです。(この状態をデルタニュートラルと言います。)
当然、株価は日々値動きしますのでデルタも変化します。以下A、Bの様な状況を考えてみましょう。
A:株価が上昇してコールオプションのデルタが0.3に上昇したとします。そうするとコールオプションの合計のデルタは4→6に上昇する為、デルタニュートラルに保つ為には、追加で2単位の空売りをする必要があります。
B:逆に株価が下落してデルタが0.2に低下したとします。コールオプションのデルタは再び6→4に減少する為、今度は現物株を2単位購入して空売りのポジションを一部解消することでデルタニュートラルを保ちます。
一連の取引を振り返ってみると、A→Bの過程で株価が高値の所で空売りし、株価が下がった所で買戻ししている為、差益が抜けることが分かります。この取引を繰り返すことで、株価が上がっても下がっても理論上は利益を出し続けることが出来ます。
4.アセット・スワップ
先程のデルタヘッジをする上で、CBをそのまま保有すると株式のコールオプションだけでなく、発行会社の社債もくっついてきてしまい、発行会社のクレジットリスクを抱えることとなってしまいます。では、株式のコールオプションだけを保有すれば良いかというと、日本では会社法によって、社債と新株予約権を分離してCBを発行することが出来ません。
そこで、アセット・スワップという手法を用いて、疑似的にCBの株式コールオプションだけを保有している状況を作り出すことが出来ます。やり方としてはデリバティブを用いる方法や信託受益権を用いたものがあります。詳細な仕組みは今回は割愛しますが、アセット・スワップが提供されないとヘッジ投資家の需要を取り込むことが出来ないので、とても重要なものだと思ってください。
5.CBの付帯条項
CBには様々な付帯条項をつけることが可能で、これによってCBを転換しやすい設計にすることや、逆に転換し難い設計にすることが出来ます。よって、付帯条項もCBの価値に影響を与えます。付帯条項としては、転換制限条項(CoCo, Contingent Convertible)、修正価格条項(Moving Strike)などがあります。詳細については今後、発行事例を基に紹介していきます。
如何でしたでしょうか?少し複雑かもしれませんが、SBやデリバティブの基本的な概念が分かればCBについても表面上は理解することが可能です。次回は、発行事例をもとにもう少し具体的に見て行ければと思います。
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