今回は株式投資型クラウドファンディングの仕組みや国内、海外の市場についてご紹介します。
日本でも徐々に認知されてきている株式投資型クラウドファンディング(通称ECF, Equity-based Crowdfunding)についてご紹介していきます。前々から関心がある事柄で、留学先で修士論文を執筆するにあたり当該テーマを選択しました。今回は、そこで収集した情報をまとめたものをご紹介します。
【目次】
1.株式投資型クラウドファンディングとは
2.株式投資型クラウドファンディングの歴史
3.国内市場
4.海外市場(英国・米国)
5.日本市場の課題と可能性
1.株式投資型クラウドファンディングとは
株式投資型クラウドファンディング(通称ECF)はクラウドファンディングの一種です。クラウドファンディングは大まかに以下4つの形態に分けられます。一般的に一番身近なのが寄付型や購入型と呼ばれるものです。クラウドファンディングのサイト上で、不特定多数の人に対して寄付を募ったり、あるいは受け取った金銭をもとに商品開発を行い、後日支援者に対して商品を提供するといったものです。(日本だとCAMPFIREやMakuakeが有名だと思います。)これに対して、投資型とも言われる融資や株式型のクラウドファンディングは提供された金銭の対価として、企業の債券や株式を受け取るものです。
もう少し株式投資型クラウドファンディングの仕組みについて詳しく見ます。株式投資型クラウドファンディングは、企業が不特定多数の個人投資家から資金を募集し、その対価として自らの普通株式を渡すものになりますが、投資家と企業の橋渡しをECFのプラットフォーム企業が担うこととなります。保有資産状況などの事前審査を経て適合と見なされた投資家がECFプラットフォーム上に登録されています。それら登録された投資家向けにECFプラットフォーム企業が資金調達の告知を行い、資金を募集することとなります。調達企業が設定している目標金額以上の応募が集まればクラウドファンディングが成立し、企業の資金調達が成功となります。この際、金銭を受け取る調達企業、普通株式を受け取る投資家の双方から、ECFプラットフォーム企業は一定の手数料(e.g.調達金額に対して●%のマージン)を受け取ります。現時点の日本国内では、ほぼ全てのプラットフォーム企業は発行会社からしか手数料を取っていません。
2.株式投資型クラウドファンディングの歴史
日本においては、2015年の金融商品取引法の改正に伴い、第一種少額電子募集取扱業務というものが認められる様になり、株式を対価としたクラウドファンディングによる資金調達が可能となりました。しかしながら、法律上可能になっただけで、金融庁からの取扱業者としての免許を受けた事業会社が暫く存在しませんでした。それから2年後の2017年4月に日本で最初に当該業務の免許を得たFUNDINNO(ファンディーノ)による国内初の株式投資型クラウドファンディングによる資金調達がBank Invoiceによって実施されました。
そこから2020年7月末時点で160件以上のECFによる資金調達実績が積みあがっており、総額でおよそ38億円が個人投資家から企業に投資されたことになります。利用が開始されてから2年目は調達件数・金額共に大きく伸長しました。しかし、3年目の2019年になったタイミングで、調達企業の倒産や、一度調達した企業が2回目の調達にチャレンジするも、(1回目の調達で示した計画を全然達成出来ていないなどの理由から)調達に失敗する事例が表れ始めました。こういった背景から、調達に成功する事例が徐々に厳選されていった感はあります。
一方、イギリスの事例を見てみると、2018年時点では£363M(≒490億円、135円換算)とおよそ13倍の市場規模があります。2016年に関してVCが供給する資金量を上回っており、企業の資金調達手法として確たる地位を築いていることがわかります。米国もイギリスには劣りますが、2019年時点で100億円以上のECFによる資金調達実績があります。日本と比べると米国が3倍弱、イギリスが10倍超とまだまだ小さい市場です。イギリスは10年以上の利用実績があり、その中で何度かの法改正も行われ、制度的にも洗練され人々からの深い認知も得られていることからも、イギリスには一日の長があると伺えます。一方、実は法改正されて利用されたタイミングは日本と米国には殆ど差がありません。元々の個人投資家の裾野が圧倒的に広いことに起因するのかもしれませんが、日本はもう少し頑張って欲しいものですね。
実際、ECFに限らず、日本の金商法などは個人投資家を過度に保護する傾向があり、ECFに関しても3か国の中では最も低い投資金額のバーが設定されています。(企業がECFで年間に調達できる金額が1億円未満、個人投資家が同一銘柄に投資できる年間投資金額が50万円以下)こうした法規制の差異も、日本のECF市場の発達の遅れにも影響しているものと思われます。
以上、各国のECFの変遷をざっくりと見ていきました。次に、ECFの国内市場と海外市場(英国と米国)について詳しく見ていきます。
3.国内市場
ECFの国内市場は2017年4月にFUNDINNOによる第一号案件を皮切りに、調達件数や調達を支援するプラットフォーム企業数ともに拡大していきました。先程もお伝えした通り、2017-18は大きく飛躍した年でしたが、2019年にかけては調達件数・金額ともに前年比で減少する結果となりました。そうした中で、2017-19年にかけてFUNDINNOを含む計4社が国内ECF市場で活動してきましたが、2019-20年にかけて業界再編(提携や合併、新規参入)が起こりました。(その変遷を示したものが下図です。)2019年までは、FUNDINNO、EMERADA EQUITY、GoAngel、Unicornの4社が主に業界を牽引してきました。しかしながら、2020年にかけて運営主体であるEMERADA(フィンテック事業を手掛ける)がECF事業をangelbankに譲渡しました。また、GoAngelはクラウドファンディング大手のCAMPFIRE傘下に加わり、CAMPFIRE Angelsとして再スタートを切っています。ここに、SBI Holdingsが新規事業として参入し、GEMSEE Equityというプラットフォームを新たに立ち上げました。加えて、大和証券グループとスタートアップスタジオを運営するXtechの合弁会社としてイークラウドが設立されました。依然として、実績ではFUNDINNO1社で市場の8割以上を独占している状況に変わりはありませんが、プレーヤー数が6社となり、大手資本系列も参入したことからも、競争環境は今後激しさを増してゆくと思われます。
ECFの利用に係るコストですが、現在日本では基本的に発行会社側の負担となっています。料率はプラットフォームによって多少のバラツキはありますが、基本的には22%(20%+消費税)の手数料が調達金額に応じて発生します。(海外市場と比べると日本はだいぶ高い水準で、国内上場会社がIPOや公募増資などで調達する際に引受証券会社に支払う手数料率(数%)と比べるととても高い水準です。)また、証券会社が行う引受行為とも、ECFの建付けが異なる様で、手数料の処理についてもスプレッド方式が利用出来ず、調達金額の22%相当の手数料が費用としてPLにヒットすることになります。(プラットフォーム企業の各社HPを見ると、手数料相当分も織り込んでバリュエーションは計算している様です。)スタートアップや中小企業なのでそこまで気にする企業も多くないのかもしれませんが、調達期のPLがとても凹んでしまうのは、個人的には嫌だなと感じます。
普通株式以外でも新株予約権の形態でも資金調達することが可能です。(現時点ではFUNDINNOとangelbankでの取り扱いが可能です。)こちらは、資金を提供する対価として、新株予約権(事前に定められた行使価額によって発行会社の普通株式を将来購入できる権利)を受け取ることが出来ます。普通株式の場合と比べて、投資家は新株予約権を取得した時点では発行会社の株主ではなく、発行会社の議決権の希薄化も起きません。(潜在的な希薄化が発生します。)予約権を行使できるタイミングは、イグジット事由(IPOや他社へ売却する際など)に限定される様です。また、11月より種類株式による調達をイークラウドが提供開始しています。(※詳細はこちら)
ECFで資金調達した企業のイグジット実績ですが、FUNDINNOが支援した漢方生薬研究所、nommocの2社が株式譲渡によってイグジットした事例があります。(その他にも完全にイグジットした訳ではありませんが、ECFで投資した企業から一部リキャップ(自社株買い)を行った事例も数件ある様です。)現時点ではかなり限定的で今後の飛躍に期待です。
4.海外市場(英国・米国)
次に海外市場を見ていきましょう。ここでは、イギリスと米国の2つの市場について見ていきます。この2つは世界の中でも先進的な市場です。
まずは、イギリスから見ていきましょう。最も長いECFの利用実績がある中、競争環境は日本に類似した部分があります。主要なプラットフォーム企業は5社程度ありますが、crowdcubeとSEEDRSという2つのプラットフォーム企業が市場をほぼ寡占しています。投資方法は、日本と同じ様に広く不特定多数の個人投資家を結び付けて株主にさせる方法とノミニー(nominee)投資というECFで株主となる株主の代表株主となる法人がまとめて投資する形態の2つがあります。(後者のやり方をとればECFによる株主は1名しか増加しません。)また、イギリスはECFの老舗だけあって、ECFによって獲得した非上場会社の普通株式を売買するセカンダリー市場も存在します。加えて、コミュニティ形成にも力を入れています。ECFで資金調達した企業のその後の成長を応援するための専門家(弁護士、会計士など)のコミュニティと、投資家や調達企業のコミュニティが形成されています。これによって、口コミによるECFの理解度向上、新規の利用者紹介や、資金調達後の成長戦略の実行支援などプラスに働いています。
こうした、長い運用期間の中で構築されたエコシステムが下支えとなり、ECFによって調達した企業の生存率(2011~2020年/3末迄)は同期間にVCから資金調達した企業の数値と同水準を誇ります。事業構想段階やプロトタイプを開発した段階でもVC出資先と同程度生存しているというのは、通常スタートアップの5年生存率が5割を切ると言われていることを踏まえても、非常に優秀な結果だと思われます。一方、残りの23%の内、倒産せずにイグジットに至った例は全体の3%(それでも44件の実績)とVCよりもまだだいぶ劣ります。しかしながら、調達企業の大半がプレシード、シード期(VCが積極的にリスクテイクする前)の企業であることを考えれば、(その後のステージと比較して)イグジットするには時間がかかることが想定されます。調達企業の中にはIPOした事例やフィンテック領域で有名なユニコーン企業であるRevolut(レボリュート)も含まれます。
次に米国市場です。米国市場は主要なECFプラットフォーム企業数も10社程度存在し、またシェアも日本やイギリスと比べて、比較的分散されています。(1~2社で市場全体の8~9割を占めるということはありません。)大手は、WefunderとStartEngineの2社です。米国では元々、ベンチャー投資に対して新株予約権の様な形態(SAFE(Simple Agreement for Future Equity)やKISS(Keep It Simple Securities)と呼ばれる非常に簡便な方法)での投資が盛んに行われており、また日本と同様にECFによる調達金額の上限が設けられていることから、予約権の形態による少額調達が主流となっているようです。そのことは、2019年のECFによる調達件数735件(調達総額で勝る英国の422件よりも大きい)という数値からも見て取れます。
米国では投資家と発行企業の双方から手数料を取るやり方が取られています。水準は各社まちまちですがWefunderの場合、発行企業から7.5%、投資家から2%の手数料をECFによる調達成功時点で徴取します。その後、調達企業がイグジットに成功した際に投資家から10%のcustodian feeを徴取します。これには、発行企業側の手数料負担を下げることで、ECFの利用を促す狙いがあります。また、イギリスと同様に投資家や調達企業間のコミュニティ形成に力を入れています。加えて、ノミニー投資による資金調達も可能であったり、セカンダリー市場についても一部のプラットフォーム企業で整備が進められています。イグジットもNASDAQ市場にIPOした事例(CNS Pharma等)など着実に実績が積みあがって来ています。(法整備されて最初の調達が実施されたのが2016年と日本とそれほど変わらない中で、既にかなり大きな差が生まれてきています。)
5.日本市場の課題と可能性
これまでにECFの仕組みと、日本市場、海外市場における動向を見ていきました。最後に日本市場の課題について考察します。
前述の通り、日本市場は徐々に広がりを見せているものの、海外市場と比べるとまだまだ小さく、市場自体の成長スピードも今一つというのが実態です。大きな課題としては、資金調達手段としてECFが利用される絶対数が諸外国と比べて少ないというのが挙げられます。そして、その理由は手数料率の高さなど、いくつか存在するECFのデメリットに起因すると言われていますが、最もクリティカルな理由はECF後の資金調達ラウンドでVCから出資を受けることが困難になることが挙げれます。(現時点で、ECFで資金調達した企業がその後にVCから資金調達出来た事例というのは恐らく皆無です。逆に、VCから資金調達した企業がECFを利用した実績はあるようです。)なぜ、VCはECFを嫌がるのでしょうか?原因は、ECFの仕組み(不特定多数の個人株主を多く生み出す資金調達手法)によって以下の問題が引き起こされるためと言われております。
①反社リスク
不特定多数の個人投資家が株主になることで、反社会的勢力が紛れ込むリスクが懸念されています。反社勢力が株主になることで上場出来なくなるなど、様々な弊害が生じるからです。
②株主管理の負担増
ECFは制度上、1回の調達は1億円未満、1社に投資できる金額も年間一人当たり50万円と制限が設けられています。よって、上限に近い金額を調達しようとすると、最も高いバリュエーション(1株50万円)で調達出来たとしても200名近い株主が創業初期のタイミングで増えることになります。このことによる、株主間の調整や総会対応などの負担が大きく増すことになります。
しかしながら、こういった懸念点に対してプラットフォーム企業各社が対応して払しょくしようと努めています。(イークラウドの波多江代表が書いたnoteの記事が懸念点とそれらに対する撃ち返しを非常に良く纏めています。)私自身も色々調べていて一般的に挙げられる懸念点がそこまで大きな問題ではない様に感じます。もしかすると、ECFが利用されない一番の理由は、「仕組みとして良く分からない、良く分からないが故に何となく不安だから利用しない」といったことなのかもしれません。
日本は米国、中国に次いで世界第3位のGDPを誇ります。一方で、GDP対比でのVC投資の比率は世界第11位(英国の半分以下)です。また、ユニコーン企業数も7社で第8位(英国の1/3以下)です。テック投資家が盛んな世界の主要都市ランキングのトップ20に日本の都市は一つもランクインしていません。何がこの様な結果を生むのでしょうか?種々存在するのかと思いますが、大きな理由としては日本は投資に回るお金が少ないということが挙げられます。
以下の図は、日本・米国・ユーロの3地域における個人資産の総計とその内訳を示したものです。日本は現金が占める割合が53.3%(約900兆円)と諸外国と比べて圧倒的に大きいです。こうした背景から、日本国内において、個人の資金がプロである機関投資家などに還流せず、投資という観点で企業に資金を供給する出し手は少ないのが現状です。逆に、日本は歴史的に、潤沢な国民の預金を活用して融資する商業銀行が大きく発展し、これは戦後の行動経済成長にかけて非常に上手く機能していきました。しかしながら、既に成熟している日本市場において、融資でリスクをとれる設備投資などの成長投資の機会が豊富にある訳ではなくカネ余りの状況が生まれました。(最近、銀行の預金に対する貸金の比率も過去最低を更新しています。)そういった中、よりリスクの高い所へお金が流れなければ経済が停滞してしまいます。その一つの解決策となり得るのが、株式投資型クラウドファンディングだと私は考えます。繰り返しになりますが、ECFは個人投資家のお金を企業(ベンチャーや中小企業)につなげる仕組みです。個人投資家の誰もがエンジェル投資家になれる機会を提供しています。イギリスの様に日本でも、VC(通常シリーズA以降から投資)がリスクテイク出来ないフェーズ(プレシード、シード期)でリスクマネーを供給する様な役割を担い、スタートアップのエコシステムを構築できることを願っています。その為にも、ECFプラットフォーム企業とVCとの交流を増やしたり、ECFで資金調達した企業を応援する様な仕組みを整備すること、セカンダリー市場やノミニー投資を可能にする法改正などの対応が必要だと考えます。
以上、株式投資型クラウドファンディングに関してご紹介しました。この仕組みに関心を持った方の理解を深めることに少しでも貢献出来れば幸いです。
【出典】
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