今回は普通社債(Straight Bond, SB)についてご紹介します。
今回は、普通社債(Straight Bond, SB)の仕組みについて簡単にご紹介します。日本企業にとって、銀行借入と並んでポピュラーな資金調達手法の一つだと思います。しかし、その仕組みについては意外と知られていないため、本記事を通じて少しでもご理解の助けになれば幸いです。
【目次】
1.SBとは
2.発行会社の格付け
3.SBの発行形態
4.SB発行の利点
1.SBとは
会社が投資家向けに債券を発行することによって行う、資金調達手段の1種です。販売形態としては、我々の様な個人向けとプロの機関投資家向けの2種類があります。
以下、基本的な用語について見ていきましょう。
・発行価格:発行する際の金額、債券毎で異なる
・額面金額:債券の最低申込単位(基本的には100円)
・償還価格:償還日に投資家に払い戻される金額(=額面金額)
・償還日:債券が償還される日(満期日)
・クーポン:利息(額面金額に対する利率によって決められる)
・利率:リスクフリーレート+リスクプレミアム(発行会社毎に異なる)
・リスクフリーレート:リスクが殆ど無い金融商品から得られる利回り※1
※1 日本の場合は国債だと考えて下さい。
・期限一括返済:償還日迄に元本の返済はない(基本的にこの返済方法をとる)※2
※2 以降、社債価値を考える際は全て期限一括返済の前提で考えます。
次に債券の価値について見ていきます。投資家側から見れば、一定のクーポンを毎年受け取り、償還日に償還価格を受け取るというキャッシュフローの割引現在価値が債券価値に対応することが分かります。よって、DCF法(詳しくはこちらの記事をご覧下さい)に基づき以下の様に計算されます。
基本的には、社債の契約によって発行年限(n)、額面金額(F)、クーポン(C)は決められます。よって、社債の価値を決める上で重要な要素は利率(r)であることが分かります。前述の通り、利率はリスクフリーレート(=国債利回り)+リスクプレミアムであり、後者の主に発行会社のデフォルトリスクをどの様に見積もるかで、社債価値が決まってきます。
2.発行会社の格付け
前章で、SBの価値の算出方法とその価値が発行会社のデフォルトリスクに大きく依拠することが分かりました。でも、どうやってこれらのデフォルトリスクを計算すれば良いのでしょうか?前述の通り、個人向けの社債も存在しますが、個人でこれらの計算をするのは何だかとても大変そうですよね。
投資家に代わってデフォルトリスクの参考となる指標を格付機関と呼ばれる会社が独自のモデル(財務状況や事業内容などに基づき)により算出してくれており、それらを参考にすることが出来ます。下表の通り代表的な格付け機関は4つあります。Moody’sとS&Pは名前を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、米系の大手格付機関になります。一方で、R&IとJCRが日系の大手格付機関となります。
日本国内の投資家から円建てで資金を募る場合は、国内の格付機関(R&I、JCR)の格付けが、海外投資家から外貨建て(e.g.米ドルなど)で資金を募る場合は、海外の格付機関(Moody’s、S&P)の格付けを取得する必要があります。日本国内において、基本的にはBBB格以上(投資適格水準)の格付が無い発行体が公募で社債を発行することは困難だと思って下さい。(米国ではハイイールドのマーケットが開拓されている為、日本の債券市場と状況は大きく異なります。)
3.SBの発行形態
続いて、基本となる3種類の発行形態について見ていきます。何れの場合も、(デフォルトリスクを考慮せず、時間に依らずリスクプレミアムが一定と仮定)経済効果は等しいです。(投資家から見ると年利1%で5年間運用できる金融商品に投資している。)
①オーバーパー(Over-Par)発行
発行価格>額面金額(Premium)となる様な発行形態を指します。
クーポン>利率
パー発行(②)と比べて、額面よりも大きい金額で発行している為、より多くのクーポンを支払うことで帳尻合わせを合わせます。
②パー(Par)発行
発行価格=額面金額となる様な発行形態を指します。
クーポン=利率
③アンダーパー(Under-Par)発行
発行価格<額面金額(Discount)となる様な形態を指します。
クーポン<利率
パー発行(②)と比べて、額面よりも小さい金額で発行している為、より少ないクーポンの支払いで済むことが分かります。
この概念は、今後紹介する転換社債(CB)の仕組みを理解する上で、非常に大切になってきます。
また、この他にもdeferral(期中のクーポン支払いを繰延べて償還日に元本と合わせて返済する発行形態)など、色々な発行形態があります。
4.SB発行の利点
さて、SB発行の利点はどんな所にあるのでしょうか?ざっくりとですが以下の様な利点が挙げられます。
A:(高格付けの発行会社であれば)金融機関からの借入と比べて金利を低く抑えられる可能性がある
B:金融機関からの借入余力の確保
1・2章でご紹介した通り、社債価値は発行会社の利率(≒デフォルトリスク)によって決まり、デフォルトリスクは格付機関が算出する格付けによって表されることが分かりました。以下の図は、欧州諸国ですが格付け別の10年国債のスプレッドをプロットし近似したイールドカーブです。社債の場合も同じ様に、低格付け(CCC)から高格付け(AAA)になるにつれてスプレッドが0に漸近するようなイールドカーブが描かれます。
よって、Aについては日銀のマイナス金利政策によって、10年国債ですらマイナスの利回りに達している現状において、日本国内で発行する場合は、高格付けの発行会社であれば殆どゼロに近い金利で調達できる可能性があるからです。実際に、今年の10月にトヨタファイナンスが発行した200億円の3年債は発行金利が0.001%でした。
◆トヨタ系が利回り0%の社債発行 国内初、200億円
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO50887920R11C19A0MM8000/
また、社債を起債することで、企業の調達手段の多様化が図られます。一般的に、金融機関からの資金調達(借入)は間接金融、債券の様な形態での資金調達を直接金融と呼ばれ、便宜的に直間比率(=内直接金融による調達/負債計)という指標を定義します。この指標が大きい程、その企業が金融機関からの借入に資金調達を依存していることになります。歴史的な背景から、日本企業の多くがこの指標が高いと思われます。
一方、金融機関はラストリゾートと呼ばれる様に、機関投資家の様に一つの取引の経済合理性だけでなく、今迄の取引経緯を踏まえた資金調達の支援を行ってくれる可能性があります。但し、金融機関からの借入が相応にある状態であれば、無論追加での調達は難しくなります。よって、BについてはSBの調達により直間比率を高めることで、いざという時の金融機関からの借入余力を確保できる可能性があります。
如何でしたでしょうか?最後にもうちょっとちゃんと学ぶ上で役立つ書籍をご紹介して終わります。(試験対策用に書かれている為、専門書ほど詳しくないですが、その分平易でお薦めです。)
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