今回はEntrepreneurial Strategy(起業家の戦略)というテーマで、Entrepreneurial Strategy Compassというフレームワークをご紹介します。私も講義で習って初めて知ったフレームワークなのですが、シンプルでありながら結構便利なものなので、ご紹介させて頂きます。
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【まとめ】
1.Entrepreneurial Strategy Compass
2.Intellectual Property(知財戦略)
3.Value Chain(バリューチェーン戦略)
4.Disruption(破壊的戦略)
5.Architecture(プラットフォーマー戦略)
6.まとめ
1.Entrepreneurial Strategy Compass
起業家の戦略について、体系化して分析したレポートで有名なもので、トロン大学のJoshua GansとMITのScott SternのThe Foundation of Entrepreneurial Strategyというものがあります。これは、①Control-Executionと②Collaborate-Competeの2軸で区分するというものです。まずは、それぞれの軸について見ていきます。
1つ目の軸は、投資や商品開発にあたり、他社に開示される情報をコントールするか否かという点です。2つ目の軸は、バリューチェーン上のプレーヤーと協業するか競合するかという点です。これら2軸に基づくと下図の通り4象限に戦略が区分されます。
バリューチェーン上のプレーヤーと協力しつつも、投資や商品開発にあたり事業アイデアで開示される情報をコントロールするという戦略が知財戦略(Intellectual Property)です。次に、バリューチェーン上のプレーヤーと協力し、かつExecutionを重視し、それらプレーヤーとの繋がりを強くしていくのがバリューチェーン戦略(Value Chain)になります。一方で、バリューチェーン上のプレーヤーと競合するという選択をとり、Executionを重視するのが破壊的戦略(Disruption)になります。また、競合しつつも開示情報をコントロールするのがプラットフォーマー戦略(Architecture)です。各々の戦略の詳細や具体例は次章で紹介します。
2.Intellectual Property(知財戦略)
知財戦略は、既存のバリューチェーン上のプレーヤーとのつながりを強くしつつも、バリューチェーン上のエンドユーザーをメインの顧客と捉えます。情報をコントロールしつつ、バリューチェーン上での繋がりを強化する為には、エンドユーザーにとって、かけがえのない価値を提供する為に必要不可欠なパーツでなければならないからです。よって、知財戦略のプレーヤーのValue Creation Hypothesis(価値創造仮説)は、既存市場の既存プレーヤーによって彼らの革新的な価値が確りと伝搬して顧客に提供されることです。その為にも、①誰が彼らのサービスから恩恵を受けるエンドユーザーであり、②誰がそのエンドユーザーに進んでサービスを提供したいと思うのかを特定する必要があります。一方、Value Capture Hypothesis(価値獲得仮説)としては、バリューチェーン上の川下で、なるべく寡占されている大企業でエンドユーザーに彼らの価値を提供したいと思っているプレーヤーを見つけ、独占的なライセンス契約などを結ぶことが利幅を上げる鍵になってきます。そのパートナーがその他競合を押しのけて独自の市場シェアを伸ばすことで、知財戦略を取っているプレーヤー自体の力(Bargaining Power)が増していくからです。この戦略の肝は競争力の源泉を産んでいる技術や仕組みに関する情報を守りつつ、バリューチェーンに噛み込むことです。知財戦略の具体例としては、DolbyやXeroxが挙げられます。
3.Value Chain(バリューチェーン戦略)
バリューチェーン戦略は、知財戦略と同様に既存のバリューチェーン上のプレーヤーと協業しようとする点では一緒ですが、コントロールよりもエクセキューションを重視します。知財戦略と同様にバリューチェーン上での結びつきを強くする為に、より優れた価値を既存のエンドユーザーに提供できることが必要になります。一方で、知財戦略との違いは、バリューチェーン上の川上や川下のプレーヤーに情報をオープンにしつつ、とにかくTry & Errorを繰り返し自社製品の改善を繰り返し、素早く優れた製品を作り上げるという点です。価値創造仮説は、既存のバリューチェーン上のプレーヤー(特に接続しようと思う川下のプレーヤー)がユニークであり今後不可欠だと思う様な価値を提供しようとしていることが前提となります。価値創造仮説は、知財戦略と同様に売り手の交渉力を確立することです。資本力の乏しいスタートアップにとって、短期的に既存の競合に対して優位性を誇示出来ても、中長期的にそれを維持するのは容易ではありません。また、他業種の大手資本が新規参入してくるリスクや川上・川下の大手プレーヤーに飲み込まれるというリスクもあります。持続的な優位性と参入障壁を構築する為にも、とにかくスピードを意識して確固たる強みを作り上げ、バリューチェーンに確りと噛み込むことが、バリューチェーン戦略上は肝要です。当該戦略の例としては、Infosysや最終的にオラクルに買収されてしまいますが、Sun Microsystemsなどが挙げられます。
4.Disruption(破壊的戦略)
一方で、破壊的戦略は既存のバリューチェーン上のプレーヤーと競合しつつ、エクセキューションを重視します。その中で、既存のバリューチェーンを陳腐化させようとします。破壊的戦略については、以前の記事でも紹介しているので、詳細はそちらをご覧ください。具体例はNetflixやTransfer Wiseなどです。(Fintech系はこの戦略を取っている所が多いです。)
5.Architecture(プラットフォーマー戦略)
最後にプラットフォーマー戦略は、既存のバリューチェーン上のプレーヤーと競合しつつ、情報もコントロールし、新しいバリューチェーンを自分自身で構築するというものです。4つの戦略の中で最も骨が折れるものと言われています。莫大な先行投資が必要になることが予想されます。また、スタートアップが一度にバリューチェーンを構築するのも現実的に難しいです。よって、最初にバリューチェーンの川上と川下、どちらの面にフォーカスするのが得策かという点が重要になってきます。しかし、構築出来てしまえばネットワーク効果(Network Effect)の大きな恩恵を受けることが出来ます。メルカリを例に考えてみましょう。メルカリで古着など不要になったものを販売したい人は、商品がすぐに売れれば、もっと他のモノも売りたいときに売ってくれる様になるし、同じようなニーズを持つ周囲の人に紹介したりして売りたい人の数や売る頻度や出展数などが増加します。一方で、買いたい人は自分が欲しいと思っている商品があれば買いますし、そうでなくても扱っている品数や価格の幅が生まれれば、購入する頻度や購入に訪れる人の頻度も向上します。そして、それは前述の売り手への影響へと伝播して買い手と売り手が相互に増加していく正のサイクルが生まれます。そして、自然とプラットフォーム自体の価値が高まっていきます。これがネットワーク効果です。具体例はその他には、UBERやebay、個人的に馴染み深いのだとBloombergなどが挙げられます。
6.まとめ
Entrepreneurial Strategy Compassは企業を分析する上で便利なフレームワークの一つです。その企業のスタンスが①情報をオープンにしているのか否か、②既存のバリューチェーン上のプレーヤーと協業または競合しているのかという点に着目するだけで、Intellectual Property、Value Chain、Disruption、Architecureの何れの戦略を取っているのかを判断することが出来ます。
また、戦略というのは環境の変化と共に移り行くものです。よって、当初は破壊的戦略を選択していたのに、徐々にプラットフォーム戦略にシフトしていくなど様々です。(Netflixが良いですね。)自社の強みを活かすあるいはより強固にしていく為に、どういった戦略を取るか考える上での参考になるので、The Foundation of Entrepreneurial Strategyは是非読んでみて下さい。
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